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ドラマ「運命の人」と西山記者事件

平成24年3月1日
弁護士 秋 重  実

 
 今回は,現在TBS系列で放送中のドラマ「運命の人」を取り上げたいと思います。このドラマは,登場人物のモデルとなった西山太吉氏や渡邉恒雄氏がドラマに対する批判を展開する等,いろいろな意味で話題となっていますが,憲法的な視点からも重要な争点を含む事件です。
 ドラマの下敷きとなっている「西山記者事件」(あるいは,「沖縄密約電文事件」,「外務省秘密電文事件」等の名で知られています。)は,ごく簡単に言うと,昭和46年(1971年)に調印された沖縄返還協定に関する外務省の極秘電文を,毎日新聞の記者であった西山記者が外務省女性事務官から入手し,当時社会党議員であった横路孝弘氏(現衆議院議長)に流したため,女性事務官は国家公務員法100条1項違反,西山記者は同111条(秘密漏示そそのかし罪)に問われた事件です。
 なお,国家公務員法100条1項は,公務員が「職務上知ることのできた秘密」を漏示することを禁じ,同法111条は漏示行為の「そそのかし」行為を処罰対象としています。この事件では,憲法との関係では,憲法21条が保障する表現の自由の一内容とされる報道の自由との関連で,取材の自由とその限界が問題となったものです。つまり,「そそのかし」罪の取材行為への適用の可否が問題となったのです。
 第一審判決(東京地裁昭和49年1月31日)は,「そそのかし」に当たる取材行為も例外的に違法性が阻却される場合があるとして,具体的に利益衡量を行い,西山記者を無罪としました。他方,第二審判決(東京高裁昭和51年7月20日)は,「そそのかし」罪の厳格な合憲限定解釈を行ったうえで,有罪としました。
 ところが最高裁(昭和53年5月31日)は,そのいずれとも異なるアプローチをとり,西山記者を有罪としたのです。すなわち,取材が真に報道の目的であり,手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会通念上是認されるものであれば,正当な業務行為と言えるが,取材対象者と肉体関係をもつなど,人格の尊厳を著しく蹂躙した取材行為は,法秩序全体の精神に照らし社会通念上,到底是認することのできない不相当なものであり,違法である,としたのです。
 他方,女性事務官の方は,早々にかつ全面的に罪を認め,ほとんど争うこともなかったため,第一審において有罪判決を受け(懲役6カ月執行猶予1年),控訴することなく刑が確定しています。また,「ひそかに情を通じ」という文言で話題となった起訴状を書いたのは,後に参議院議員となった故佐藤道夫氏です(事件当時は東京地検特捜部検事)。この方は,多数の著書があるほか,現役の検事長時代に新聞紙上で検察批判を行ったことでも有名です。
 なお,近時,事件発生から40年近く経ち,政権交代もあった中で,密約の存在とその経緯が明らかになり,再度話題となりました。