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著作権法と引用のルール

令和3年9月19日
弁護士 秋 重  実

【はじめに】

 ブログの記事を書いたり、論文を書いたりなど、何らかの執筆活動をする際、他の方が書いた文章を引用することがあると思います。その際に何も考えずに書籍の内容をそのまま引用してしまうと、著作権法違反になる可能性があります。そこで今回は、引用する際に知っておくべきルールについて説明します。
 

1. 著作権法とは

 著作権法は、著作物等(著作物、実演、レコード、放送及び有線放送)を保護する法律であり、知的財産法の一つです。そして、「文化の発展に寄与すること」(著作権法1条)を究極的な目的とします。要するに、著作者の権利を保護しつつ、著作物が公正に利用されることで、著作物の創作活動が活発に行われ、文化が豊かになることが目指されています。
 もっとも、既存の著作物を利用する際、その著作権者から常に許諾を受ける必要があるとすると、文化の発展に寄与するという目的にそぐわないこともあります。そこで著作権法は、一定の場合に著作権を制限する規定を設けており(著作権法第30条以下)、既存の著作物を引用する場合も、一定の要件のもと、著作権の制限が認められています。
 

2. 引用する際のルール

(1) 引用の要件

 具体的には、著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。」と規定しています。そしてこの引用は「公正な慣行に合致するもの」であり、かつ、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」でなければならないと規定しています。
 したがって、引用としての利用が著作権侵害とならないためには、
①「公表された著作物」であること
②「引用」であること
③「公正な慣行に」合致すること
④「引用の目的上正当な範囲内」であること
という4つの要件を満たすことが必要です。
 

(2) 各要件について

① 「公表された著作物」であること
 著作権者が公表した著作物が引用の対象となることを意味します(著作権法4条1項)。未公表のものや、手紙やメール等の特定の個人に向けられたものは「公表された著作物」に該当せず、引用することはできません。
 
② 「引用」であること
 「引用」に当たるためには、引用部分が他の部分と区別されているという①明瞭区別性と、②自分の文章が内容として主であり、引用する文章はあくまで補足的な関係にあるという②主従関係の、二つの要素に配慮することが必要です。具体的には、引用部分をカギ括弧「」でくくるなどし、また引用部分はあくまで主たる部分の補足にとどめる必要があります。
 裁判例でも、明瞭区別性について、「単に「利用することができる。」ではなく,「引用して利用することができる。」と規定していることからすれば、著作物の利用行為が「引用」との語義から著しく外れるような態様でされている場合,例えば,利用する側の表現と利用される側の著作物とが渾然一体となって全く区別されず,それぞれ別の者により表現されたことを認識し得ないような場合などには,著作権法32条1項の適用を受け得ないと解される。」と判示したものがあります(東京地判平成30年2月21日(平成28年(ワ)第37339号)・裁判所ウェブサイト〔沖縄うりずんの雨事件〕)。
 
 ③ 「公正な慣行」に合致すること
 これは、「世の中で著作物の引用行為として実態的に行われており、かつ、社会感覚として妥当なケースと認められるもの」と説明されています。
 また、「公正な慣行」として出所の明示(著作権法48条1項1号)も考慮されるとする判決(東京高判平成14年4月11日(平成13年(ネ)第3677号)・裁判所ウェブサイト〔絶対音感事件控訴審〕)もあるため、引用する場合には、誰のどの本からの引用か、出所を明示しておきましょう。
 
 ④ 「引用の目的上正当な範囲内」であること
 裁判例においては「社会通念に照らして合理的な範囲内のもの」と言い換えられており(知財高判平成22年10月13日判時2092号135頁・裁判所ウェブサイト〔絵画鑑定証書事件〕)具体的には、③の要件と併せ、「他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮されなければならない。」と判示しています。上記沖縄うりずんの雨事件も同様の判示をしています。
 

(3) その他の注意点

 著作者は、その著作物や題号について同一性を保持する権利を有するところ(著作権法第20条第1項)、マンガを批評する書籍に漫画のカットの一部を採録した事例において、マンガのコマの配置を変更したことが改変に当たるとされ、同一性保持権侵害とした判決(東京高判平成12年4月25日判時1724号124頁・裁判所ウェブサイト〔脱ゴーマニズム宣言事件控訴審〕)もあります。
 したがって、引用する場合には、引用部分の改変や編集はしないようにして下さい。
 

【おわりに】

 以上、著作権法や引用のルールについて簡単に説明しましたが、著作権侵害の判断は個人では容易ではありません。個人や会社の著作権が侵害されているかもしれないと感じた場合や、逆に、誰かの著作権を侵害しているかもしれないと感じた場合には、お気軽にご相談下さい。
 また、下記文化庁のホームページで、著作権が自由に使える場合が簡単に説明されていますので、こちらもご参照ください。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html
 

【参考文献】

茶園成樹『著作権法』(有斐閣、第2版、2016)
大串肇ほか『クリエイターのための権利の本』(株式会社ボーンデジタル、2018)
作花文雄「改訂版著作権法」(一般財団法人放送大学教育振興会、2019)

以上