地下鉄烏丸線四条駅、阪急京都線烏丸駅24番出口から徒歩2分
京都市下京区四条通新町東入月鉾町62 住友生命京都ビル8階(四条室町西北角)
TEL 075-222-7211 FAX 075-222-7311
 

中小受託取引適正化法(取適法)と建設業法について
〜書面作成義務を中心に〜

令和7年12 月8日
弁護士 秋 重  実

1. はじめに

 下請法が令和811日に改正され、名称も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法・取適法)に変更されます。
 他方、建設業法も、令和667日に、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が国会で可決・成立し、令和71212日に改正法が全面施行されます。
 いずれも取引の公正化、契約の適正化を図ることを目的とし、中小受託事業者(下請事業者)、下請負人の利益を保護する規定を設けていますが、特に建設業における取引について適用範囲が異なり、また中小受託事業者(下請事業者)・下請負人保護の規定の内容も、似ているようでいろいろと異なる点があります。
 

2. 適用範囲の相違点

 取適法は、その適用対象である「役務提供委託」から、建設業法に規定される「建設工事の請負」を明確に除外しています(取適法第2条第4項)。具体的には、建設業法別表第一に定める29種類の工事については建設業法の適用があり、取適法の対象外となります。
 他方、建設業に関わる取引であっても、たとえば設計施工(監理)一貫契約において、設計業務や監理業務を他の設計事務所に依頼する場合、設計業務については取適法の「情報成果物作成委託」に該当し、監理業務については取適法の「役務提供委託」に該当し、いずれも建設業法ではなく取適法の適用があります。
 また、建設会社が下請業者にエレベーター機器の据付けおよび修理・保守点検を依頼する場合、エレベーター機器の据付けは建設工事(「機械器具設置工事」)に該当し建設業法の適用を受けますが、修理・保守点検は取適法の「役務提供委託」に該当し、取適法の適用を受けることになります。
 そして、取適法と建設業法では、上記のとおりいずれも中小受託事業者(下請事業者)、下請負人の利益を保護する規定を設けているものの、規定の内容が異なる点があります。
 そのため、特に建設工事の請負とそれ以外の「役務提供委託」「情報成果物作成委託」の、両方の取引を行っている企業においては、取適法と建設業法のいずれが適用されるのか判断し、それぞれの法律の内容の相違について把握し対応する必要があります。
 今回は、書面作成義務(契約書面の交付義務・発注内容等の明示義務)の内容の相違について取り上げてみたいと思います。
 

3. 契約書面の交付義務および契約内容明示義務の相違

 両法とも、取引(または請負契約)の公正性と明確性を確保するため、契約内容に関する主要な事項を書面化し、相手方へ伝達・交付すること、および取引の記録を一定期間保存することを義務付けています(取適法第4条、建設業法第19条第1項)。しかし、その内容についてはさまざまな点において相違があります。

  取適法 建設業法
法的根拠 第4条(発注内容等の明示義務) 第19条第1項(契約書面の相互交付義務)
義務の主体 委託事業者(発注者側)のみ 発注者と受注者の双方(当事者)
書面の種類 明示書(公正取引委員会規則で定める事項を記載) 請負契約書(建設業法で定める15の事項を記載)
交付/明示方法 書面または電磁的方法により明示。 書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付が原則。ただし、相手方の承諾を得て電磁的方法によることも可能。
明示の時期 製造委託等をした場合、「直ちに」明示しなければならない。 工事の着工前に相互に交付しなければならない。
変更時の対応 変更後の内容を書面又は電磁的方法により直ちに明示しなければならない。 変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
記録保存義務 第7条(書類等の作成及び保存義務) 第40条の3(帳簿の備付け及び保存義務)
保存期間 2年間 5年間(発注者から直接請け負った住宅の新築は10年間)

 特に建設業法が契約の明確性を重視しているため、契約書面に記載すべき事項は、請負代金の変更及びその額の算定方法や天災等不可抗力による損害の負担など、工事の履行中に発生し得るリスクや変更手順に関する詳細な規定を網羅しています。これは、工事の長期性や不確定要素の多さを反映しています。建設業法では、以下の事項の記載を義務付けており、これらは取適法における明示義務(代金の額、支払期日など)よりも、請負契約の特性に応じて詳細かつ厳格に求められる部分です。
(1) 工期変更、代金変更の算定方法:当事者の一方からの設計変更、工事中止の申出があった場合の工期・請負代金の額の変更及びその額の算定方法
(2) 不可抗力:天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法
(3) 物価変動:価格等の変動に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法
(4) 検査と引渡し:工事の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
 このように、建設業法の方が記載内容について厳格な要請があるため、取適法では発注内容等の明示義務を履行するためには必ずしも契約書の形式が必須とされておらず、注文書・発注書の形式でも足りるのに対し、建設業法の契約書面の交付義務を履行するためには、原則として契約書を取り交わすか、基本契約書ないし基本契約約款を取り交わした上で発注書・請書の交付を行うことが求められます。
 また、建設工事の下請契約の締結にあたっては、たとえば中央建設業審議会作成の建設工事標準下請請契約約款等、建設業法の要請をすべて満たした内容を持つ契約書による契約を締結することが求められます。
 

4. 最後に

 以上、書面作成義務について、取適法と建設業法の相違を説明しましたが、それ以外にも、いろいろな点で取適法と建設業法には違いがあります。当事務所では、取適法・建設業法に関する企業向け研修の実績もあり、また建築士の資格を持つ弁護士もおりますので、取適法・建設業法に関するお悩みごとなどあればお気軽にご相談ください。

以上