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従業員によるインターネットの私的利用

平成26年8月26日
弁護士 秋 重  実

 従業員が会社のパソコンやスマートフォンを使用して,インターネットを私的に利用した場合,たとえば私用メールや業務と無関係のサイトの閲覧をした場合,どのような問題が生じるか,検討してみたいと思います。
 
1 従業員がこのような行為を行った場合に,会社は懲戒処分を科すことができるかどうかですが,まず,労働者には会社に対し,誠実労働義務,職務専念義務を負うとされています。
 たとえば,菅野和夫・労働法〔第10版〕(弘文堂・2012年)では,「労働者は,労働契約の最も基本的な義務として,使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務を有し,したがって労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を有している。」(724頁)とされています。そして,従業員のかかる行為は「職務懈怠」の一種として,懲戒事由にあたる場合があります。
 ただし,私的利用があったからといって直ちに懲戒処分が許されるわけではなく,「職務懈怠自体は単なる債務不履行であり,それが就業に関する規律に反したり,職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由となる」(菅野・495頁)とされています。
 また,労働者は会社に対して労務提供義務を負いますが,これに付随して,「企業秩序遵守義務」をも負うものと解されています(富士重工事件・最判昭52・12・13)。かかる観点から見た場合,インターネットの私的利用は,使用者の設備であるパソコン端末や通信回線を所定の目的以外の用途で使用し,使用者に通信料金や電気料金の負担等を生じさせるものであり,企業秩序遵守義務(企業設備の私的利用の禁止)に反するものといえます。
 この企業秩序遵守義務違反は,上記の職務専念義務違反と異なり,職務専念義務違反が問題とならない業務時間外に当該私的利用が行われた場合にも妥当します。
 
2 さて,ここで過去の裁判例を1つだけご紹介しますと,K工業技術専門学校事件(福岡高判平17・9・14)という事件があります。これは,解雇を有効とした数少ない裁判例です。
 事案の概要は,専門学校の教師Xが会社Yから貸与されたパソコンを利用して7つの出会い系サイト等に登録し,その掲示板にSMの相手を募集する書き込み2件を含む複数の書き込みを行うとともに,交際相手や出会い系サイトを通じて知り合った者らと膨大な件数のメールのやり取りを約5年間繰り返し(受信記録1650件余,送信記録1330件余,うち出会い系サイトでの受送信分も800件以上),その約半数程度が昼休みを除く勤務時間内であった,というものです。
 解雇には厳格なハードルを課す裁判所も,さすがにこの事例で解雇はやむを得ないものと判断しました。その他の裁判例では,ほとんどが解雇は無効とされています。もっとも,解雇に至らない戒告,減給といった処分であれば,事案にもよりますが,有効とされる場合があると思います。
 
3 会社としては,このような従業員に対する対応として,①インターネットの私的利用を使用規定,就業規則等によって禁止しておく,②従業員研修を実施する,苦情・相談処理体制を整えておく,③使用規定等において使用状況を監視,点検できることを明示し,これを実施する,といった対応が考えられます。
 ③については,こういった使用規定がないにも拘らずパソコンやスマートフォンを調査すると,プライバシー侵害の問題が生じるおそれがありますので,注意が必要です。
 
【参考文献】
・菅野和夫・労働法〔第10版〕(弘文堂・2012年)
・白石哲編著・労働関係訴訟の実務(商事法務・2012年)
・日本組織内弁護士協会監修・事例でわかる問題社員への対応アドバイス(新日本法規・2013年)